現代の芸者遊びの一座敷は、時間にしておよそ2時間。
時計などが発達していなかった時代は、芸者遊びは、線香を立てて時間を計った。
線香が燃え尽きる、すなわち線香が「たちきる」のが芸者衆の一座敷だったという。
その昔、柳橋(やなぎばし)で芸者遊びに夢中になり、店のお金まで持ち出してしまう若旦那。あまりにも遊びが過ぎる為、親族会議により、100日の間、蔵(くら)に入れられることになってしまう。
ようやく蔵から出る日になり、番頭さんに、柳橋から若旦那宛に届いた手紙を見せられる。聞けばその手紙は、若旦那が蔵に入ってから80日間毎日届けられたのだという。
その手紙は、若旦那が恋焦がれた、娘芸者の小糸(こいと)からの物であった。
蔵から出て、直ぐに柳橋に行き、小糸が働く店に行ってみると、女将さんから小糸が死んだ事を知らされ衝撃を受ける。
小糸が死んだ理由とは…。
若旦那と小糸は、一緒に芝居を観に行く約束をしていたが、
若旦那が蔵に入れられてしまった為会いに行くことが出来ず、心配した小糸は、蔵に入れられていることを知る由もなく、毎日毎日若旦那に手紙を出し続けた。
いつまで経っても若旦那が現れないため、悲しみに暮れた小糸は次第に身体の調子を崩し、床に付くようになってしまう。
いよいよ峠を迎える頃と思われたが、そんな折、若旦那が小糸の為に誂えた(あつらえた…注文して作らせる事)三味線が届く。小糸は弱った身体を支えてもらい、一撥(ひとばち)三味線を弾くと、そのまま眠るようにして息を引き取ったという。
若旦那は深い悲しみの中、小糸に謝り涙を流す。すると仏壇に供えられた三味線が独りでに音を奏で、女将さんは「小糸ちゃんが弾いている。」と…。
若旦那は両手を合わせ、目をつむる。すると突然三味線の音が止まってしまう。
「なぜ三味線を弾き続けてくれないのか。」と若旦那が問うと、
女将さんが
「もう駄目です。あの子は三味線を弾きませんよ。ご覧ください。お仏壇の線香が、丁度今、たちきれました。」
切ない人情噺(にんじょうばなし)です。上方(関西)落語の桂 吉朝(かつら きっちょう…故人)師匠のを何度も繰り返して聴きました。YouTubeで動画が観れますよ。
お勧めです。これからも古典落語の名作をご紹介いたします。
行徳亭 林檎(ぎょうとくてい りんご)
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